「どっとがどっちとも言えないけど、残骸の多さでは津波の方がひどいんじゃないかな。戦争のときはわりとさっぱりしていた」
――えっ、さっぱり?
「戦争は敵の正体わかっているじゃない。でも、津波は正体が分からない。戦争より津波の正体の方がわかっているじゃない。だから今度こそ、津波の正体を身届けてやる。そう思って、最後まで目をそらさなかった」
津波が来たときに、山下の病室には、たまたま巡回診療中の副院長がいた。山下はその副院長に「写真を撮れ!」と言った。さすが津波研究の鬼である。山下に命じられて病室から撮られた迫力あるそのカラー写真は、「岩手日報」の3月19日付紙面を飾った。
この副院長の妻は津波で行方不明になり、副院長はそのストレスで入院した。妻の遺体はその後、4月になってから見つかった。
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