2009年11月11日水曜日

鞆の浦と広島県知事選

 広島県知事選は、11月8日の投開票で、新人で無所属の湯崎英彦氏(44)が当選しました。鞆の浦埋め立ての裁判で敗訴して、広島高裁に控訴すると言っていた前県知事の藤田正明氏は、結局は立候補しませんでした。この裁判がどうなるかは、余談は許しませんが、新知事は控訴しないことを祈ります。
 鞆の浦は瀬戸内海の山陽海岸の中間にあり、満潮と干潮の差が激しいところですが、重要な船泊まりの港でした。鞆の浦を詠んだ万葉の歌が5首あります。大伴旅人も大宰府への赴任の行き帰りに鞆の浦に息子の家持とともに寄港しました。旅人は妻を大宰府で亡くし、
我妹子が 見し鞆の浦の むろの木は 常世にあれど 見し人そなき(巻3-446)
(わたしの妻が見た鞆の浦のむろの木は永遠だが、それを見た人はいない)
と、詠んで涙しました。
 江戸時代には、朝鮮通信使が鞆の浦の福禅寺に宿泊し、その対潮楼から見た仙酔島の眺めは、「日東第一形勝」と称えました。こういう景勝の地を埋め立て、橋を架けるという精神が分かりません。しかし、15年前の平成15年11月30日には、これも万葉時代から景勝地で有名であった和歌の浦に「新不老橋(現あしべ橋)」の建設計画に反対する住民訴訟が敗訴しました。為政者も裁判官も情のある人がならないと、日本の大事な景勝地をすべてコンクリートで覆うようなことになります。東京に来て、心痛めるのは、日本橋です。安藤広重の日本橋の浮世絵を見るたびにこういうコンクリートで覆うようなことを誰がしたのか、過去の人たちに申し訳ないと思わなかったのか、人間の精神を持っていない人たちだと思います。結局、こういう人たちが、日本から“ふるさと”をなくし、日本人の情緒を破壊したのでしょう。新しい広島県知事が控訴を諦めることを祈ります。もし、控訴すれば、湯崎県知事の人形(ひとかた)に五寸釘を打つでしょう。

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