国内外の情勢を総じて考えると円高傾向はしばらく続きそうです。果たして国内にとどまって生き残るすべはないのだろうかと産経新聞の経済本部長である谷口正晃氏は、問題提起しています。
過去の円高局面でも、企業は工夫を凝らして乗り切ってきました。1985年のプラザ合意のあと、円は1年間でドルに対して約4割切り上がりました。急激な環境変化に苦しんだ輸出企業は日銀の大幅利下げを支えに生産性の高い新鋭工場を新設。賃金の安いアジアに工場を移転するなどコストカットも進めました。その結果、2年後には国全体で5%の成長を確保しました。
その後の円高局面でも、中国やアジア各国に汎用品の生産拠点を移してコスト圧宿を加速して来ました。
78万人の雇用を抱え、全製造業の15.3%の出荷額を生み出す基幹産業の自動車ですら、国内では利益を出すのが難しくなってきています。平成23年3月期の大手5社の決算で、海外関連会社を含めた連結決算では1兆6397億円の営業利益を確保していますが、国内単独決算では5077億円の赤字に陥っています。5社ベースでは、対ドルで1円高くなると734億円の損失になるといわれています。
乾いた雑巾をさらに絞るために活用したのが、物理学者、エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱し、自身が設立したAGIが開発したTOC(制約条件理論)と呼ばれる生産改革プログラムです。組織のつながりを阻害するボトルネック(制約)を解決することで全体最適を目指す理論で、軍隊や自治体などの組織改革にも用いられているといいます。
この会社がAGIジャパンの助言に基づき、仕掛在庫(製造過程に入る前の材料在庫)を適正量にし、生産工程を見直した結果、生産期間が15日から2、8日に短縮できました。在庫額も6億円から37%減りキャッシュフローが改善しました。このほか、繁忙期の休日出勤をほぼゼロにし、同じ人件費で生産量を4割アップさせるなどの効率化にも成功。為替差損を吸収して国内にとどまることができたといいます。
利益率向上で、円高耐性をつけ、さらに、価格以上の競争力を得る可能性があります。ローエンド市場を狙う企業にとっても有効だろうといわれています。
企業の海外移転は新たな製品市場を生み出す一方で、国内雇用や内需を縮小させるなど国力衰退につながりかねない危険もあります。何より、無理な海外移転を迫った場合、従業員の負担は計り知れないものがあります。
「TOCは複雑に見える諸問題にシンプルな解決策を提供する全体最適アプローチ、診断費用はかからないので、円高を嘆く前に、日本国内に残る可能性を探ってみる価値はあると谷口氏は語っています。
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