2012年1月5日木曜日

佐野眞一の津波と原発(39)

 原発の取材は軍事基地の取材と似ていて、いつも監視されていました。僕が車を借りて動き出すと、必ず2台尾行がついてきた。

 ――それは東電と警察ですか。

「そうだと思います」

地域全戸の家族リストが載っていました。

 ――個人情報どころの話じゃない。

「もう、個人情報なんてもんじゃなくって、学歴、病歴はむりろん

 ――病室までですか、完全にプライバシーだ。

「それから前科、離婚暦、性格、支持政党まで徹底的に調べあげていました。あれは、完全に警察情報と一体になっていると思いましたね」

柴野はそのリストを敦賀でもみたという。敦賀で調べたものが関電本社にあがったのだろう。

「同じようなものは、福島でも見ました」

 ――福島でも見た。じゃ双葉や大熊や富岡の住民全員が調べられていたんですね。

「ええ、調べてありました。いまでこそ電気料金は自動引き落としですが、いまにして思うと、あの頃は全部メーターの検針員が各戸を訪ねて調べていましたよね」

 ――現在も検針員がメーターを見て回っていますが。

「あの頃は集金人も各家庭を回っていました」

柴野の言い分は、メーターの検針員や電気料金の集金人が各家庭に立ち入って個人情報を調べた、としか理解できない。

 ――でも、電力会社は何のたねにそこまで調べるんですか。

「表向きの名目は原発利権を漁ろうとやってくる暴力団などの情報収集です。簡単に言えば、原発労働者や彼らを牛耳っている親方たちを、いわば東電と警察の配下にしていく」

『原発のある風景』に、東京電力福島原発周辺で原発労働者が起こした犯罪の記録が出てくる。これは福島県警富岡署(現・双葉署)が作成したいわば原発“犯科帳”である。

柴野はその“犯科帳”を持って国会図書館に行き、「福島民友」「福島民報」「河北新報」などの地元紙にその事件が報じられているかどうか調べた。ただの一件も報じられていなかった。

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