2012年1月31日火曜日

60歳からの生き方(16)

 ヨーロッパでは、親たちは自分の子どもたちに対して、じつにドライな割り切った考え方、生き方をしています。たとえばノルウェーでは、自分に家屋などの不動産があると、年をとってから子どもに対応の値段で売りつけることが少なくありません。

その条件はさまざまで、「親の生きているあいだに、月にいくらいくらお金をよこすこと」とか、あるいは「即金で何千万払え」などというのもあります。これは純然たる契約関係で、もし自分の子どもより有利な条件で買うという人がいれば、その人に売りわたすこともあるといいますから、私たち日本人にはなかなかなじめない考え方のように思われるかもしれません。

フランスあたりでは、「私が死ぬまで面倒を見てください。そのかわり、私が死んだら、この財産をそっくり差し上げます」などと、新聞に広告を出す人もかなりいます。すると、実際におおぜいの人が応募してくるのです。身内ではどうしても情に流され、おたがいに、甘え合う部分が出てしまいます。アカの他人のほうが、おたがい甘えることなく契約関係を保つことができるという、わりきった考え方をもっているのです。

応募する側からすれば、相手はできるだけ早く死んでくれたほうがありがたいことになります。そこで、新聞の募集に応じてきた人は、契約の相手が腰も曲がり、杖をついてヨボヨボの姿をして現れてくるようなら、「これなら、さきは長くないな」と喜んで契約しています。あるとき、応募してきた人との契約が終わり、応募者が帰ってしまったとたん、いままで腰の曲がっていた老人が、スクッと腰を伸ばし、若々しい口笛を吹きながら、自転車に乗って出かけていってしまったという話もあるほどです。

実際、欧米の老人たちが、日本の老人たちより満ち足りた生活を送っているように見える原因のひとつは、子どもからの自立を果たしていることも、大きく関係していると私は思っています。

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