「一庶民にすぎない私が国家転覆を企てたとして、朝から晩まで強制労働させられた。言論の自由のなさを痛感した」と、重慶市林業局の職員・方洪さん(45)は5月8日、中級人民法院(地裁に相当)に名誉回復を訴えて、受理されました。強制労働で思想教育する「労働改造所」に収容され、出所したばかりでした
方氏は、4月22日朝、当時のトップの薄熙来(62)の失政について、中国で4億人が登録するミニブログ「騰訊微博」に書き込みました。薄が指揮した暴力団の一掃運動が、権利の温床になっていると隠語で皮肉りました。
その夜、地元の公安局に呼ばれ、命令の通りに書き込みを削除しました。ところが翌日、再出頭を拒むと、警官ら20人以上が自宅を囲み、24日夜には改造所に送られたといいます。
薄は大衆受けする政治運動をテコに、次期党大会で最高指導部入りする野心が満々でした。方氏の事件は、薄がネット世論に敏感だったことの証しでもあります。
薄が失脚し、方氏には名誉回復の可能性も出て来ましたが、「ネット投稿で改造所に送るのは法律違反。中国全土に広がる深刻な問題だ」
と方氏を支援する人権派弁護士、博志強氏(47)は指摘しています。
中国の共産党・政府はインタネットの登場以来、その管理に苦心してきました。「金盾計画」と呼ぶ検閲システムを1999年に稼働させ、「六・四(天安門)事件」などの「NGワード」を含むサイドは閲覧できないようにしてきました。
ところが、中国でもスマートフォンの利用者が約2億人まで急増。市民は手軽に、検閲しにくい隠語や画像で情報を交換しています。IT(情報技術)の進歩が、管理のハードルを上げたわけです。
薄の失脚の発表も、ネットを意識した情報戦の様相をみせていました。
「薄は処分される。担当の組織で動揺を広げないように」。
重慶市政府は4月10日午後3時すぎ、局長級幹部100人以上を緊急招集。官営メデイアによる夜11時の公式発表を前に情報を開示し、衝撃を柔らげる狙いでした。
会議では情報が外に漏れないように、録音・録画を禁じました。「薄の妻、谷開来は英国人の殺害容疑」との情報がミニブログへ流れ出し、まるで実況中継のようになりました。
中国でも、ミニブログの情報は玉石混合です。3月19日には、「北京市内を軍事車両が走り、発砲音が聞こえた」「薄を擁護する周永康・党政治局常務委員がクーデターの首謀者だ」との情報が流れましたが、結局はデマでした。
慌てた当局は新浪微博、騰訊微博のミニブログ大手2社を処分しました。4月上旬にかけて一部機能の一時停止を命じ、デマ流布にかかわった6人を拘束しました。
ただ、豊かになった市民が権利意識に目覚め、ネットで情報交換すること自体は止められません。最近は当局がミニブログで自らに有利な情報を流し、世論操作を試みる例も増えました。4日で天安門事件から23年を迎える中国では、ネット大衆と当局の神経戦が日々、続いています。
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