2013年4月16日火曜日

財産が少ないほど相続でもめる(1)~木村晋介

 
これも文春文庫に掲載されているものです。

相続をめぐる事件の依頼がここ数年急増し、木村氏の事務所の取り扱い事件の中、この三年断然トップの地位を占めているそうです。その中で目立つのは、遺産の額が少ないほど紛争は熾烈となっているという意外な事実です。最高裁の司法統計によっても、年度の全事件の受け付け数は年々減少、平成19年には、初めて500万件を大幅に割り込み、以降ほぼ455万件前後で推移しています。

相続関連の事件だけは、ここ10年で倍増しています。

 相続案件の中で比較的少額と考えられる遺産額1000万円以下の調停事件を見ると、平成20年度に受理された調停事件の27%強を占めています。その約10%が調停では折り合いがつかず、家事審判官による審判により、ようやく強制的解決を見ています。しかし、調停や審判になるのは、社会で起きている紛争の氷山の一角であることを考えれば、公にならない実際の少額相続事件紛争は、かなり多数に上っていると思われます。

 父の相続ときには学生であったために、兄たちのいいなりに相続を放棄した女性が、10数年後の母の相続のときになって、父の相続放棄を理由に、母の相続について激しく争うということがありました。父の相続のときに、母も遺産をほとんど受けていないということも多く、とすれば母の遺産は当然少ない。これを均分相続するのでは、不公平だと彼女が思うのはもっともなことでしょう。しかし、父の遺産をどう分配したかは、母の相続時には考慮されません。

 相変わらず多いのが、親たちが生前をともに生活してきた子(例えば長男)の世帯と、家を出、独立していた子(例えば次男)の世帯との争いです。長男としては、老父母との同居で大きな負担を負ったという思いがあります。ところが、次男は、全く別の見方をしているというわけです。まず、長男一家が父母の老後をよく見てくれたとは、かならずしも感じていません。このズレは、老夫婦が時々次男一家に立ち寄って、長男の嫁の悪口を言ったりすることによってますます増幅します。そのうえ次男の側からみると、長男は父母の家に家賃ゼロで住み、自分たちのように住宅ローンも負担していない兄一家は、父母に孫の世話までしてもらい、働き盛りに共働きもでき、得をしているという風にうつっています。要するに、人は、自分の受けた恩恵には鈍感だが、他人の受けた恩恵には敏感になる生物だということなのです。

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