ギリシャ危機の遠因は、国民の人気取りに終始しがちなデモクラシーが、「財政膨張の強い圧力に屈しやすい」点にあることはいうまでもありません。直接の原因は、ユーロという単一通貨の導入によってギリシャ独自の金融政策が取れなくなったことにあります。
ユーロ導入がなぜこうした危険要素を孕んでいたのでしょうか。ユーロ導入時に次の定理が頭をよぎったそうです。その定理とは、
① 為替レートの安定
② 自由な国際取引
③ 独立した金融政策
の3つの政策目標のうち同時に達成できるのは2つしかないという命題から成っています。単一通貨を導入すると、導入国間の為替レートは固定されてしまう(つまり①が達成される)。
EU(欧州連合)加盟国間の貿易・資本・労働などの移動は原則自由となっている(したがって②も達成されている) ということは導入国は金融政策の独立性を放棄したことを意味します。
各国はそれぞれの事情によって金融政策を変更することはできません。すると欧州中央銀行の決定する「一つ」の金融政策は、強い国の声で支配されることになります。したがってユーロ体制には「デモクラシーの欠損があると指摘されてきました。
EUには財務省に当たる徴税機関がありません。生産性の大きく異なる多種多様なユーロ圏諸国を、「一つ」の通貨で安定的な経済システムとしてまとめようというのであるから、その困難さは「不可能」に近いレベルにあるといっても過言ではありません。
今回のギリシャ危機からわれわれが学び得る点がいくつあると猪木氏は指摘しています。
まず、国家間の経済提携、自由貿易、経済共同体、そして政治的なユニオンへという動きの道のりは長いということです。貿易から初めて単一通貨へ、というのが、一般の動きですが、拙速は避けねばなりません。
もう一つは、財政赤字へのドライブはデモクラシーの弱点ですが、ギリシャの場合、あの赤字は単なる支出の膨張だけによるものではありません。国家の徴税機能が極端に低下したことによる歳入欠陥の問題は意外に知られていません。一国の脱税額を計測できませんが、高所得者層の納税額は異常に低いことは夙に指摘されていました。
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