三陸沿岸の瓦礫の片付けには自衛隊、警察、さらにボランティアが多数入っていたが、地震直後の原発事故で立ち入り禁止区域となった請戸の浜などの瓦礫は、放射能汚染の恐れがあるため、まったく手つかずのまま放置されている」と佐野氏は書いています。
佐野氏が浪江に行ったのは、牛の大規模牧場を訪ねるためでした。避難命令が出てからもう1ヶ月半も経っていたので、行く前はほとんどの牛が餓死しているだろうと想像していました。
だが、案に相違して、死んで白い石灰粉をかけられた牛は五頭しかいなかった。あとの約300頭は、牛舎や牧場で元気そうに暮らしていたといいます。
村田淳氏(56歳)によれば、浪江の牧場には、数日おきに、水とエサを与えに行っているといいます。
――でも、立ち入り禁止区域だから警察に阻止されるでしょう。
「『どっから来たの』とか『どっから入ったの』ってうるさく聞くから、『いや、教えらんねえ』ってゲロしなかったんだ」
村田氏は通り道の南相馬市と浪江町に立ち入り許可を何度も求めてきたが、認められなかった。やむを得ず、検問を避け、細い山道を抜けて、浪江農場の牛に水とエサを与える仕事をいまもつづけています。
村田氏は、「人が行かなくなった畜舎は悲惨だ。成牛も仔牛も折り重なって死んでいる。それを見るといたたまれなくなる」といいます。
――でも、福島県は警戒区域内にいる乳牛や豚、ニワトリなどの殺処分を始めると発表しましたね。
「瀕死の状態の牛を安楽死させるっちゅうのは、仕方ない。でも元気な牛を殺す資格はだれにもねえ。平気で命を見捨てる。それは同じ生き物として恥かしくねえか」
――浪江農場は福島第一原発から約十四キロと、すごく近いですよね。浪江に牧場作るとき、原発が怖いとは思いませんでしたか。
「まったく思わなかった。頭の隅っこにもなかった。完全に想定外でした。だって、原発は安全だという前提で成り立っているからね」
――このままで行くと浪江農場は使えなくなる可能性が…
「あるね。浪江はエサ代や人件費で月1200万円かかる。仮に金融機関からの融資がうまくいって、そのお金が準備できたとしても、別の場所を探さなきゃいかんでしょう。またゼロからのスタートというのは…」
――しんどい。
「おらも、はぁ、もう56だから、そんな元気もそろそろなくなってくるって」
――最後に、東電にいま一番いたいことは何ですか。
「ここへ来て、悲しそうな牛の目を見てみろ。言いたいのはそれだけだ」
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