国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)の研究チームが、5月31日の早稲田大学で行われた日本考古学協会総会で放射性炭素年代測定によって、纒向石塚古墳(奈良県桜井市)の築造時期を200年頃としました。さらに、この方法によって、箸墓古墳の築造時期を卑弥呼の没年(248年頃)と一致する240~260年としました。非常に衝撃的な、ある面で一方的な発表でしたので、発表後、司会者の同協会理事が「(発表内容が)協会の共通認識になっているわけではありません」と、報道機関に冷静な対応を求める異例の要請を行いました。
歴博グループは、放射性炭素年代法によって全国で出土する土器に付着した炭化物を中心に年代を測定。箸墓でも、築造時の土器とされる「布留0式」など16点を測り、この前後につくられた他の墳墓や遺跡の出土品の測定結果を総合して240~260年を導きました。発表者の春成秀爾・歴博名誉教授は、「この時代、他に有力者はおらず、卑弥呼の墓が確定的になった」と述べました。しかし、土器付着炭化物は同じ地点から出た他の資料に比べ、古い年代が出る傾向があります。この点、年代を割り引いてみる必要があるかも分かりません。一見、科学的な論証が加えられますと、すぐに信じてしまいそうになりますが、こういうことは前提があって、これが崩れるとまったく用をなしません。
この放射性炭素年代測定は、リビー教授によって提唱されました。植物などに含まれる炭素の一種の「C14」が5730年で半減するという特性を生かし、残存する炭素量を調べるものです。炭素の原子量は12ですが、地球上の炭素には、極わずか(約1%)な原子量14の放射性炭素(C14)が含まれています。この放射性炭素は、空気中の窒素に宇宙線の2次中性子が衝突して作られると考えられていますが、不安定で、絶えず電子を放出して、安定な窒素原子に変わります。この現象は、極めて規則的に起こり、その数が半分になる期間は、半減期と呼ばれ、C14の場合、5730年かかることが知られています。炭素は酸化されて炭酸ガスになり、大気中に一様に分布していきますが、C14は生成と崩壊の平衡になるところで大気中の炭酸ガス中にほぼ一定の濃度で過去現在を通じて存在していたと考えられています。
大気中の炭酸ガスは、植物の光合成によって植物体内に取り込まれ、さらに動物などの体内に取り込まれるため、生体物中の放射性炭素の濃度は大気中の濃度にほぼ等しいはずです。しかし、その生物が死ぬと外部からのC14の供給がなくなるので、その生物遺体中のC14は、上記の半減期に従って減少していきます。
測定対象物は、基本的に有機物が遺物に含まれていなければならず、石器や金属などは測定できません。しかし、土器を例に取ると、土器本体ではなく遺跡から土器と一緒に発掘される木炭や貝殻、粘土の中に混ぜた植物繊維組織や加熱時の煤、土器内の残存物などから、土器の製造について年代測定が出来ます。
C14年代値を算出するときに、過去においても大気中のC14濃度が一定であると仮定していますが、主に、地磁気が変動することによって、地球に降り注ぐ宇宙線が変動すると、その結果、炭素14の生成量が変わってしまうため、また、発掘後に置いた土壌に含まれる有機物や空気中の煤煙、タバコの煙や手垢が付着するだけでも測定値は大きく変わってしまいます。
現状では、炭素14年代と実際の年代は、必ずしも一致せず、誤差が50~100年であるといわれ、絶対的な信頼をおける測定法とはいえませんが、年輪年代法の基準となる試料の炭素14濃度を測定して較正した、C14年代を暦年に変換する較正曲線がつくられるなど、測定精度を高める努力がなされています。
長いので、明日につなげます。
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