「斉を攻めるよりも、わが国にとって腹心の病根とでも言うべき越を、まず滅ぼさねばなりませぬ。でなければ、いつ背後を襲われるか、知れたものではありませんぞ」
夫差は唇を突き出して、「その越はのう、こんどの北伐に、かねて訓練した兵の三分の二を従軍させる、と申しておるぞ。それから、戦費も負担するそうじゃ。それが、わが背後を襲うかの?」
「ますますご用心なさいませ」
「おまえにはついて行けぬは」
顔さえ見たくない夫差は伍子胥を遠ざける方法を考えた。
「おまえは越のことばかり申して、斉の事情すら知らぬではないか。使者として派遣するから、一度斉を見て参れ。」
「命令でございますか?」
「そうじゃ」
「それでは、仕方がありません。行って参りましょう」
伍子胥は
「俺は嫌われている。それで、こうして遠ざけられるのだ」
と直感した。
楚の平王の屍体を鞭うった時、彼は老いをかんじ、「日暮れて道遠し」と言った。それからもう20年もたっている。どうやら、道も行き詰まりになっているらしい。
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