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蠡園の西施像 |
「出兵の好機ぞ」と、夫差は判断した。
「背後に越があることをお忘れなく」と、伍子胥(ごししょ)は諫めて言った。
「越になにができるというのか」
夫差は構わずに北伐の兵をおこし、斉軍を艾陵というところで破った。
自分も南方の後進国風情であることを忘れていた。謙虚さを欠いていた。
越王勾践(こうせん)はあくまでも恭順を装っていた。妻とともに呉に出向くと、呉王に仕えること奴婢のようであった。呉王は勾践に、石室に住まわせ、わが父闔閭(こうりょ)の墓の番人をさせたりもした。勾践は唯々として、墓の番人をつとめた。墓域の草とりなどもした。
「この男、もはや王としての誇りもなければ気力もない」
夫差は勾践の勤めぶりを見て、見くびった。
これこそ勾践の思う壺であった。
蔑まれることがひどければひどいほど、越のためになる。
范蠡にそういわれている。
「可哀想に。范蠡さんを国に帰してあげたらどうでしょう。あたしと違って、あの方は、国に家族をのこしているのに」
愛妃の西施は眉をしかめて言った。
「越での収穫は、勾践を破ったことよりも、この西施を得たことだ」
夫差はそう考えるようになっていた。
彼女の言うことなら、どんなことでも彼は聞き入れた。
「よし、范蠡を帰国させよう」
夫差はその場で決定した。
理屈ではない、生理的な嫌悪感であった。
「なりませぬ、なりませぬ!」
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