2013年2月23日土曜日

松下幸之助は泣いている(8)


 在庫はたまりたまって経営を圧迫しています。幸之助氏は生産調整を行うため、工場の操業時間を半分にしました。当然、就業時間も半分になります。今で言うところのワークシエアリングですが、それにもかかわらず給料は全額を支給し続けました。

すると、会社の経営が苦しいことがわかっている社員たちもふるいたちました。工場を動かさない空いた時間を利用して、工員たちも営業と一緒になって得意先を回り、製品を売り歩きました。約2ヶ月で余剰在庫はなくなり、数ヶ月後には注文も戻ってきました。社員を温存していた松下電器はそれらの注文にすばやく応えることができ、業績は急回復していったといいます。

戦後にGHQ(連合国軍総司令部)から戦争に協力した疑いをかけられ、企業規模を縮小するようにという指令が出た時には、幸之助氏にも打つ手がありませんした。説明会の壇上で幸之助氏は涙をながしながら事情を説明し、従業員たちに許しを請うたと言われます。それほどに社員、すなわち人材を宝だと考えていたわけです。 

日本の経営者の中にも、「人件費は変動費だ」と言ってはばからない人が出てきています。売上が伸びている時には雇用を増やす、しかし売上が落ちてきたらリストラして人件費を減らす

つまり人材を「会社経営の安全弁」と考える経営です。そのために、いざという時にリストラしにくい正社員ではなく契約社員やパートなど、いわゆる非正規雇用従業員の割合を増やす会社が実際に多くなりました。

リストラをすれば、たしかに人権費は削減できます。しかし、同時に貴重な販売ルートを失う危険性もはらんでいます。エンジニアが流出した場合は、技術そのものや特許は会社に残りますが、営業の場合は直接販売力の低下につながります。特に海外ではそうなのです。

最後には法務と財務の担当者のリードによって具体的なリストラが始まっていました。

優秀なマネジメント層の人材で、ライバルであるサムソンやLG、ヒューレット・パッカードなどに移籍した人もいます。

幸之助氏は「商品を売る前にまず自分を売りなさい」と言いました。最終的にはビジネスは「人」だということなのです。

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