原爆は、ウランやプルトニウムの核分裂を瞬間的に起こすことによって大量の爆発エネルギーを出します。そのとき発生するものが、ウェスタン3州に降り注いだストロンチウム90などの“死の灰”です。
原子力発電では、ウランやプルトニウムの核分裂をゆっくり起こすことによって大量の熱エネルギーを生み出し、それを電気エネルギーに変換しながら利用します。この時に発生するものは、核実験と同じ、“死の灰”です。それを、“廃棄物”と呼んでいます。
たとえ核実験が停止されても、原子力発電所が生み出している死の灰は、半永久的に地球上に存在し続けることになります。少なくともプルトニウムは、その天文学的に長い寿命から考えて減ることはなく、増加の一途をたどるほかはありません。
原子力規制委員会(NRC)が、
―― 1990年までに、全米の原子力発電所の半分が閉鎖される運命にある。調査した結果、廃棄物を正しく管理する施設がパンクすることは明らかであるーー
と警告を発しました。
これを受けて原子力産業は、つぎのように反論しました。
――もう少し延命することは可能である。しかしそれには、国家が責任をもって廃棄物の埋め立て地を早急いに決定しなければならない---
この結果、エネルギー省が7ヵ所の候補地を選び出しました。ところが、そのどこにも、東部の人口密集地が入っていませんでした。怒ったのは、西部と南部の諸州です。
7ヵ所のなかにネバダとユタが入っていました。ネバダはラス・ヴェガスの目の前、ユタはモニュメント・バレーの目の前、です。
ユタ州の場合は、キャニオンランド国立公園の赤い砂岩地帯にウェスタン鉄道を引き込み、地底1キロの深さに埋める計画でした。この公園の監督官ゴードン・トファムは頭を振りながら、
「一体この美しい土地のどこに鉄道を引こうというのだ。理解できない」
と怒りをぶちまけました。
ユタ州知事は、核実験の被害に加えて廃棄物の被害まで受けかねない事態に直面して、全米に対して宣戦を布告し、ついに拒絶したのでした。
1985年には、最終候補地がネバダ、テキサス、ワシントンの3州に絞られてさらに恐怖が大きくなり、ネバダでは次の言葉が住民の口から吐かれるようになりました。
「ラス・ヴェガスの賭博場のネオン・サインを、放射能の無気味な輝きに変えるというのか!」
廃棄物を地底1キロに埋めるというが、その深さはちょうど、地下核実験がおこなわれている深さであり、予測もつかない大災害が起こる危険性を秘めています。
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