世に多くの予言者と思想家が輩出しました。しかしその誰ひとりとして、死の灰が招く事態について予言し、あるいは死の灰から免れる理想郷について哲理を語った者はいません。人類は今、過去に培ってきたあらゆる根底をくつがえされようとしています。
死の灰には、発癌性のほかに、ふたつの特徴があります。
ひとつは、長期性であり、もうひとつは、濃縮性です。
この重大な特徴は、いまだに世界のほとんどの人に認識されていません。
“死の灰”を体内に取り込んでいるなどと、誰が考えるでしょう。第一線のアトミック・ソルジャー、ポール・クーパーでさえ、証明するには19年の歳月を要しました。
ジョン・ウェインをはじめとする『征服者』の一団がユタ州のロケ地に居たとき、核実験は一度もおこなわれませんでした。それでもあのように大量の癌患者が発生したのは、とりこんだ放射性物質を人体が濃縮してゆく性質を持っているからです。
われわれの体も、プルトニウムを肺か卵巣に濃縮させます。そこでウラルのような核実験を起こすのではなく、癌細胞の爆発的増殖を生み出していきます。
ストロンチウムは、原子の構造がカルシウムと類似性を持つため、人間の体に入ったあと、カルシウムと行動を共にする傾向があります。カルシウムは骨をつくる重要な元素です。したがってそれに似たストロンチウムもまた、骨に運ばれてゆき、骨の細胞に固定されます。こうして一旦固定されてしまうと、容易に排出されません。
胎児から小児へ、小児から成人へと発育してゆく過程では、新しい養分を次から次へと吸収することによって身長が伸び、体重が増え、体積を増加してゆきます。そのとき、食べ物にストロンチウムが混入していると、骨のなかに吸収され、それが一日一日と蓄積されていきます。
脂肪、蛋白質、炭水化物などのように日々刻々と新陳代謝を進めながらエネルギー源となる有機物に比べて、ストロンチウムやプルトニウムのような無機物は、体内での停滞期間がことに長いものです。そのため、濃縮を起こします。また、死の灰が体内で放射線を出しながら、周囲をがん細胞に変え、そのシコリが正常な代謝をさまだげ、死の灰自ら死の灰を固定していく、という濃縮作用も起こります。
もしその濃縮された物質が放射線を出すストロンチウム90であれば、骨髄で生産され白血球のいくつかが、その影響を受けて癌細胞になります。この異常の発生する割合が高くなり、正常な白血球に打ち勝ったとき、ナダレ現象のように白血病の疾患があらわれるということになります。
空気中での放射能の測定値がわずかに4ラドという地域でさえ、そこに生活する羊の甲状腺(ノド)が、3万5000ラドの被ばく量を示す放射性物質の濃縮を起こし、胃腸でも1万2000ラドと、空気中の1万倍近くまで濃縮が起っていました。
ナップ博士は公聴会で証言しました。
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