「棚上げすべき領土問題は存在しない」(岸田文雄外相)というのが日本政府の立場で、だから野中発言は許せないとなるわけです。
ところが、日本政府の立場もあやふやです。2010年秋には当時の前原誠司外相は論説委員らとのオフレコ会見で「日中間に黙契(暗黙の了解)がある」と言っているし、宮本雄二元中国大使は昨年7月7日付朝日新聞で、日中外交当局者間で現状維持という「暗黙の了解」があったと述べています。そもそも領土問題がないのであれば、暗黙の了解を交わす必要はありません。
厄介なのは、同盟国である米国が、尖閣諸島が日本の施政下にあると認定すると同時に、「領有権争い」が存在することも認め、当時国間の話し合いで解決すべきだとの公式の態度をとっていることです。
そもそも、米国が尖閣諸島の主権が日本にあることを認めないため、中国はいつまでも攻勢の手を緩めません。それでは、なぜ米国は尖閣諸島の主権が日本にあることを認めないのか。早大客員教授の春名幹夫は、次のように述べています。
「サンフランシスコ平和条約(1951年)で尖閣諸島を含む琉球諸島は『米国の施政下に置かれ』たが、1972年の沖縄返還以降、尖閣は『日本の施政下にある』と明記している。
では『主権』はどうか。
米側は平和条約以後、尖閣を含む琉球諸島の『潜在主権』が日本にあることを認めていた。だから、『沖縄返還』で当然、琉球諸島の主権も尖閣諸島の主権も日本側に原状復帰したと考えるのが当然だ。しかし、外務省のホームページにはそのような記述はない。
沖縄返還協定が調印された1971年6月17日、国務省スポークスマンは記者団の質問に答えて『尖閣諸島の返還が中華民国(台湾)の(領土)主張を侵害するものではないと信ずる』と表明していたのだ。しかし、当時、日本側はそのやりとりに全く注目しなかった。
愛知揆一外相がその発表内容について駐日米公使から説明を受けたのは、沖縄返還協定調印の前日だった。外相が抗議したという記録はないが、その舞台裏では、米台間で息詰まる外交ドラマが展開されていた。台湾は『尖閣諸島を(日本に)返還しないなら、繊維交渉で妥協してもいい』と米側に極秘提案していた。
このあたりの詳しいことは、文藝春秋7月号に詳しく書かれています。
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