紀元前681年にも斉と魯は戦いがあり、魯は負けた。その賠償として、遂の地の割譲を申し出た。魯の荘公は空を仰ぎ、涙をのんで、講和の会議に向かった。曹沫も随行した。
講和の盟は壇を築いて行なわれる。
その作法は、牛を殺してその左耳を盤に盛り、その血で誓約のことばを書き、神明に告げたあと、その血を啜って読み上げる。魯の荘公がまさに盟を行なおうとしたときに、曹沫は壇に駆け上り、斉の桓公に飛びかかった。
曹沫は左手で桓公の襟をとらえ、右手には匕首が桓公の胸元につきつけられていた。曹沫はしずかに言った。
「斉は大国。魯は小国。これまで、大国の侵略を受けて、城壁は崩れ、国境線は侵食されてぎりぎりのところに来ています。どうぞ奪った土地をお返し願いたい」
斉の家臣たちもどうすることも出来ない。下手に動けば、主人の命が危ない。
「わかった」と桓公も答える以外になかった。
「では、その盟をここで誓っていただきましょう」と、曹沫は言った。
盟が終わると、曹沫は匕首を捨て、何事もなかったように席に坐った。
桓公は憤り、「奪った土地から兵を引くな。脅しによる盟約は無効だぞ」
と命じた。
このとき、管仲は
「それはいけません」と言った。
「なぜいけないのか」
「小さな土地ではありませんか。そのために諸侯の信用を失っては、何もなりません」
桓公は、しばらく考えたのちに
「わかった。兵を引け」
と改めた。
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