献公の葬儀は、大臣の荀息によって執り行われた。喪主は驪姫の妹の少姫の子の悼子であった。まだ赤子である。しかし、喪主がいないと葬儀は行なえない。当時は、親の葬儀の喪主となった子が後継者となる。葬儀が終わると、喪主はすぐに処分しなければ、重耳も夷吾も戻れない。
里克は、悼子も自らの手で殺した。
大臣の荀息は献公との約束も守れず、二人の子の奚斉と悼子も護れず、驪姫をも死に誘った罪を感じ、自殺した。
連合派はまず重耳に帰国を促した。だが、重耳は
――献公の葬儀に参列できなかったわたしが、なぜ帰国できましょう。資格がありませんーと断った。
断るまでには、重耳は五人の賢者――趙衰、狐偃、賈佗、先軫、蘇武子――と、慎重に検討した。帰国はたしかに危険であった。
「これまで辛抱して、なにも今、苦労するために帰ることはない。厄介なことは夷吾にやらせよ」と趙衰が言った。
「膿が出てしまうのを待つのもいいが、そうなるとわれわれの帰る機会もなくならないか」と、先軫が懸念を示した。
「夷吾は、心配せずとも必ず自滅する」と賈佗が断言した。
「なぜそう思う」と、重耳が訊ねた。
「夷吾は好き嫌いが激しく、疑い深く、そのうえ吝嗇家です。国を長く治めることはできないでしょう」と、狐偃が代わりに答えた。
「それでは、どのくらい持つかな」
重耳が再び訊ねた。
「十年か、よく持てても十数年でしょう」と、狐偃が答えた。
「そうなると、わしは六十ではないか」と、重耳は苦笑した。
「しかし、無理をすることはない。今回は帰国するのを見合わせよう」
重耳が結論を出した。
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