2013年4月13日土曜日

歳のせいで物忘れがひどいという誤解(3)~池谷裕二

 
大人と子どもの決定的な違いは何かというと、子供はど忘れしても、「あ、やっちゃったな~」みたいに落ち込んだりしない。でも大人はすぐに「歳だからな」と気に病んだり、「これって何かの前兆かな…」と不安になってみたりと、ショックに感じることが多いのです。だからよけいダメージが大きくなるのです。

脳も、記憶力も、いわれているほどは衰えません。生後半年以内の若いウサギと生後2~3年の老ウサギを使って大脳皮質の海馬の性能を測定しました。海馬は記憶を司るところです。ブザー音を聞かせてからウサギの目に空気をしゅっと吹きかけます。これを何度も繰り返すと、そのウサギはその流れを覚えて、ブザー音が鳴ると空気が来るぞとわかって目を閉じるようになります。

その結果、若いウサギは約200回、老ウサギは約800回で覚えました。これをみると、ウサギも歳をとると確かに記憶力が低下するようにみえます。記憶のスピードが4分の1くらいになって、海馬の性能が年齢とともに衰えているように見えます。しかし次に、θ(シータ)波という脳波が出ているときの状態を調べてみたところ、老ウサギが学習して記憶する力は若いウサギとほどんど差がなく、とても優秀な成績だったそうです。

θ波は興味をもってわくわくするときや、次はどうなるのか知りたい、というような気持ちのときに出ます。つまり、θ波が出ているときなら、若者と同じだけのパフォーマンスを発揮することは十分にできるのです。

大人にとって怖いのはマンネリ化です。

気持ちがマンネリ化するとθ波は出ません。歳をとっても好奇心を持っていろんなことを楽しむという姿勢は、記憶力を衰えさせないためにも大切なことです。

0 件のコメント: