2011年12月2日金曜日

佐野眞一の津波と原発(9)

 今日からは、原発に入ります。佐野氏のこの本は、原発の方に多くのページを割いています。本人の言葉を借ります。

「東京電力福島第一原子力発電所は、人類がかつて経験したことのない大事故を起こし、いまだ収束のめどさえついていない。

双葉町に入って最初に目に飛び込んできたのは、アーケードの入り口にかかった『原子力明るい未来のエネルギー』という横書きの大看板だった。裏には『原子力正しい理解で豊かなくらし』と書かれていた。だが、豊かなくらしは、その原子力によって奪われ、商店街は、核戦争後の世界のように不気味に静まり返っていた。

倒壊した家の前には痩せて背骨が浮き出た飼い犬が、血走った目をしてうろついていた。

双葉駅の構内には、動物愛護団体が置いていったのか、ペットフードの大袋が封を切られて置かれていた。

電柱という電柱に『地域とともに東北電力』と書かれた看板がかかっているのも、皮肉だった。この街の信号は、東北電力の電力によってまかなわれているため、停電を免れた。

事故を起こした福島第一原発は、その東北電力の管内にあって、そこで生産されたすべての電力をひたすら東京のために送りつづけてきたのである」。

北海道、岩手県に次いで全国で三番目に面積の大きい福島県は、太平洋沿いの「浜通り」、奥羽山脈と阿武隈高地に挟まれた「中通り」、新潟県に接するその西の「会津」という三つの地域に大別されます。写真家の竹内敏信氏は、日本の桜の三大名所を奈良県全域、長野県全域、福島県中通り地方とあげています。今回、原発被害にあった中通り地方は、桜の三大名所のひとつです。原発事故に関係なく、爛漫の桜を咲かせたことでしょう。

「白虎隊の血をひく『会津』出身者は頑固で骨ぼっく、その代表が個性派俳優として知られた佐藤慶やフラメンコダンサーの長嶺ヤス子だといいます。『中通り』は人の交流が多く、文化の雑種性が特徴で、その典型として西田敏行と“下町の玉三郎”こと梅沢富美男があげられます。『浜通り』には、これといった特徴が見当たらないとあります。

相馬といわきにはさまれた“原発銀座”は相双地区呼ばれ、その相双地区の中心部の楢葉、富岡、大熊、双葉からは有名人はほとんど出ていません。“原発銀座”地区は文化的には不毛の地と言えると佐野氏は書いています。

佐野氏は、まず、ホテルから車で十分ほどの「ビッグパレットふくしま」に行きました。ここは東電福島第二原発がある富岡町や、内陸部の川内村などの住民の避難所となっています。

佐野氏がそこを訪れた日、東電の仮払い補償金支払いの説明会が開かれていました。次にあげるのはそこで東電の職員たちが配っていた書類であるといいます。

まず、左上にバカ丁寧にも「ご被害者の皆様へ」、右上に「東京電力株式会社 取締役社長  清水正孝」と書かれていました。

本題のタイトルも「仮払補助金お支払いのご案内」と、あくまで慇懃です。書類を避難者たちに渡す東電の職員たちの態度は、もし平身低頭という四文字をサラリーマンにあてはめたらこうなると思われる見本のようだったと書いています。

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