2009年6月4日木曜日

放射性炭素年代測定(2)

 さて、放射性炭素年代測定法を提唱したリビー教授は、次々に年代値を世に送りました。大場博士の蓮の実と共に、千葉県姥山貝塚の木炭、横須賀市夏島貝塚の第1貝層から出土した木炭とカキの貝殻の測定値が、1960年に報告されますと、内外に大きな反響を呼びました。9000年以上前という予想をはるかに超える古い年代が得られたのです。

姥山貝塚 竪穴式住居 木炭

4546±220

姥山貝塚

4513±300

大賀蓮の実

1040±210

夏島貝塚カキ貝殻

9450±400

夏島貝塚 木炭

9240±500

 縄文時代の大筋の年代は炭素14年代値を使うものの、詳細な年代は土器型式の編年に頼る方が精密に出来るという風潮が、続いています。
 炭素14の半減期は5730±40年です。つまり、非常に正確な時計の役割を果たすことが出来るのです。大気中の炭素14原子は少しずつ壊れて減っていきますが、上空で日夜生産されているので、大気中にはいつも一定の量、炭素原子全体の約1兆分の1だけ存在することになります。二酸化炭素は水に溶けるので、海水や河川・湖沼の水の中にも、この割合で、炭素14原子を含む二酸化炭素が存在していることになります。
 この植物を食料とする動物や、食物連鎖を構成する動物・人間も同じ割合の炭素14原子を含みます。植物も動物も生きている限りは、その組織の炭素の中に1兆分の1の炭素14原子を持っています。これらの生物が死んでしまうと、新たな炭素の取り込みがなくなるので、その時点から、炭素14は壊れる一方と言うことになります。5730年で半分になるのですから、遺物の中に1兆分の1あった炭素14が、その半分、2兆分の1になっていることがわかれば、その生命体は、5730年前に生命活動を停止した、ということがわかります。これが、炭素14年代測定法の原理です。
 測定方法には、崩壊するときに出る電子を数える「β線計測法」と「加速器質量分析(AMS;Accelerator Mass Spectrometry)法」という方法があります。「β線計測法」は、炭素14は半減期が長いので、ほんの少しずつしか壊れません。現代の炭素が最も多くの炭素14原子を持っているのですが、この炭素1gを使っても1分間に約14個しか壊れないのです。私たちの身の回りには宇宙線をはじめとして、結構沢山の放射線が飛び交っているので、4~5秒に1個の電子を数えるのは至難の業です。資料が古くなれば、その数はさらに少なくなるわけです。測定室では、約6トンもの鉄(厚さ25cm)で測定器の周囲を囲い、反同時計数法という電子技術を使って、3~4万年前の資料まで測定できるようにしています。それ以上、古いものは測定できません。
 「加速器質量分析法」というのは、残っている炭素14原子を直接数えようというものです。従来のβ線計測法に比べて、AMS法は3つの特徴を持っています。
・測定に必要な試料が約千分の一以下の1mg程度
・約6万年前の資料まで測定が可能
・測定時間が、短い(30分~1時間程度)
 この方法の何よりの魅力は、極微量の資料で年代測定が出来ると言うことで、様々な分野で新しい試みがなされています。
 測定試料はゴマ粒ほどですので、誤差の影響を与えるのは、まわりの塵や埃です。年代を正確に決めるには、目的とする生命遺存体の炭素だけを取り出す必要があります。その時に、厄介なのは、現代の炭素14濃度が最も高いということです。空気中に漂う塵埃を混入させないようにしながら、埋蔵中に付着・浸透したものや、発掘後の汚染を取り除かなくてはなりません。化学的にこれらの汚染を除くために、酸-アルカリ-酸処理(Acid-Alkali-Acid、AAA処理)を行います。最後に、グラファイト・鉄粉混合試料を内径1mmの孔にプレスして、タンデム加速器のイオン源に装着します。イオン源には一度に40個の試料が取り付けられ、通常1試料について、10分間の測定を3回繰り返しますので、40個の測定に1昼夜かかることになります。
 このような測定方法はどんどん進んでいるようですが、あくまで補強資料にしかなりません。残念なのは、多くの古墳は、宮内庁が管理しており、調査できないことです。御陵などを発掘出来れば、日本の考古学は、どれほど進むでしょう。鉄器なども錆びて、そのうち、土に還ってしまいます。残念な限りです。崇神天皇陵から盗掘された楯の拓本のようなものを見ましたが、心が躍りました。こういったものが出土すると、日本の歴史も解明されることと思います。誰が、発掘を拒否しているのでしょう。

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