2010年6月23日水曜日

読書術(14)

 轡田隆史氏の『1000冊読む!読書術』の14話目です。

 5章は、「1000冊読破」からの贈り物~もし、本がなかったら世の中はどうなる、です。

 2009年1月にアメリカ初の黒人大統領が誕生しました。当初は、暗殺されるのではないかなどと心配されましたが、今は、自然に馴染んでいるように思われます。

 ワシントンでの就任式で、宣誓のためオバマ大統領が手を置いた聖書は、かって奴隷解放のために闘い、南北戦争(1861~65年)に勝利して間もなく暗殺された第16代大統領リンカンが愛用したものでした。リンカン大統領を理想と仰ぐオバマ新大統領の、たっての希望によって国会図書館から借りだされたものでした。

 南北戦争は4年間もつづき、南北双方で、第2次世界大戦のときよりもはるかに多い計62万人の死者を出しました。アメリカを真っ二つに割ったこの恐るべき内戦によって、ともかくも奴隷は解放されました。

 轡田氏は、読書という視点から、この黒人奴隷の問題を考えたいと言っています。
 ワシントンが初代大統領に就任したのは、リンカンが第16代大統領になる71年前のことです。ワシントンの就任した翌年の1790年、初めての国勢調査がおこなわれました。アメリカの総人口はわずかに約393万人でした。このうち黒人が約76万人。そのうち約70万人が奴隷の身分でした(猿谷要『物語アメリカの歴史 超大国の行方』(中公新書)。70万人の奴隷を解放するために北と南で62万人が死んだということは、戦争の熾烈さとリンカンなどの志の高さを感じます。

 奴隷生活の中で、厳しく禁止されたのが、文字を覚えることと書物を手にすることでした。理由は、はっきりしていて、奴隷たちが文字を覚え、書物が読めるようになれば、奴隷制度反対の文書も読めるようになるし、自分たちのおかれている過酷な状況も思考をめぐらすようになると奴隷の所有者たちは考えたのです。

 アメリカ南部では、ことばのつづりを仲間に教えようとした奴隷が、農園の所有者によって縛り首にされることも一般的だったそうです(A・マングエル著『読書の歴史 あるいは読者の歴史』(原田範行訳、柏書房))。

 南北戦争による奴隷解放以前は、奴隷たちから書物を取り上げておくことが、奴隷支配の重要な手段でした。家畜のように、思考を停止させておきます。そのためには、書物を読ませません。これは、まことに恐るべき手段だったのです。

 さて、そのリンカン大統領自身の読書はどうだったのでしょうか。シェイクスピアが愛読書でした。後年の名演説は、その影響だといわれているほどです。南北戦争の激戦地ゲティスバーグでの戦死者追悼演説のなかの、最も有名な部分、人民の、人民による、人民のための政府がこの世から消え去ることはないだろう。
“and that government of the people, by the people, for the people, shall not perish from the earth.”

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