110番は、通報者から、犯行が行なわれた場所を確認します。
「眼を開けていますか」
「そのままにして、触れないでください。あたまの上に、毛布をふわりと掛けてください」
「すぐに係官が行きます」
「すぐにご主人のところに」と案内させます。
女は家に上がり、階段の上をさしました。
係長は、大きくうなずくと、かなり古くなっている階段に一段ずつ白い布を置かせました。
死者の顔には、毛布がかけてあった。殺された男は眼を見開いているから、死の瞬間以後の網膜に、余計なシーンが入っては困るのである。
「早く、ホルマリン液を!」
鑑識課員が死者の側面に這って近づき、自分はのぞかないで、毛布の下から、用意したホルマリン液を二つ眼球に注射した。
ホルマリン液は、網膜映像をその状態のままで固定させる。
死者の顔は溢血していた。
頸部に索条溝痕が痣の輪のように付いていた。かなり深い。
鑑識課員が膝、足の関節に手を当てて、調べたが、まだ死後硬直は起こっていなかった。
係長は妻の好江に悔やみをのべたあと事務的に云った。
「ご主人のご遺体は司法解剖のあと、お宅へお戻しします。多分、明日の夕刻になると思います」
救急車で運ばれる夫の遺体を門前で見送った好江が戻ってきた。
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